BLOG
BLOG
吉高由里子さん主演のドラマ「わたし、定時で帰ります。」の第六話は、社内随一の実力と人望を兼ね備える副部長兼Webプロデューサー、種田晃太朗(向井理)と最近やる気を見せ始めた新入社員、来栖泰斗(泉澤祐希)の衝突を中心に話が展開する。
入社後、初めてディレクターに抜擢された来栖は張り切って仕事をするが、社内でのデザイナーとの打合せやクライアントへのプレゼンなどで空回りしてしまい、それを華麗にフォローして立ち回る種田に自分の存在意義が脅かされたと感じて不満を抱き、ついに爆発してしまう。
一方の種田は自分のどこに非があるのかが分からず苦悩する。
このケースからは、「育成」と「成果」のバランスを取ることの難しさが伝わってくる。
そこで、部下をしっかり育てつつも成果を出すための3つの心得をお伝えしたい。
来栖は自ら「僕にディレクターをやらせてもらえませんか」と名乗りを上げ、種田はそれを了承した。やる気を見せて積極的に準備に取り掛かる来栖だったが、いざクライアントへのプレゼンが始まると緊張してガチガチになってしまう。ぎこちないままプレゼンを続けるが、先方から説明内容に疑問を突き付けられ、空気を読まない返答をして怒らせてしまう。そこで種田がスマートにフォローを入れて場を収めたのをきっかけに、先方は来栖を無視して種田と話を進め始める。
このシーンだけ見ても、来栖のプレゼンテーションやコミュニケーションスキルはともかく、準備不足だったことは明らかだ。種田は先方との打合せ後に「クライアントが何を求めているのか、どうすればそれを叶えられるのか、もっと死ぬ気で考えないとだめだろ。」と来栖に苦言を呈し、来栖の反発を招いてしまう。おそらく種田の中には「自分が来栖の立場だったらここまで入念に準備する」という基準があり、それに達していなかった来栖はサボっていたとしか思えなかったのだろう。しかしそれは見当違いであり、サボっていたのはむしろ種田(もしくは来栖の教育係の東山)ではないかという見方もできる。
そもそも来栖にとっては「初めてのディレクター」としての仕事であり、本人にとっては未知のことだらけだ。そのためディレクターとしての仕事の全体像や、クライアントへのプレゼンで気を付けるべきこと、準備すべきことなど分からないことだらけのはずだろう。それにも関わらず種田から仕事を丸投げされてしまい、暗中模索の中で準備してきただけに、来栖がやりきれない気持ちになるのも分からなくはない。
今回のプレゼンに関しては種田、もしくは東山は来栖に「しっかりやれよ」と言うだけでなく事前に準備すべきことを伝え、プレゼンの練習相手になるなどして入念にトレーニングし、来栖がディレクターとしてクライアントの信頼を得るためのサポートをするべきだったといえる。
事前準備で来栖のプレゼンの質は上がるだろうが、それでも初回から万事が上手く進むことは考えにくく、やはりどうしても種田や東山によるフォローが必要な局面は出てくるだろう。来栖がクライアントの気に障るような発言をしたケースなどは温かく見守っている場合ではなく、緊急事態としてフォローを入れなければならない。
一方、この場面で種田がフォローを入れたことがきっかけで先方は種田の方を向いて話し始めてしまい、来栖は自分が蔑ろにされたと感じることになってしまう。では一体、種田はどうすればよかったのだろうか。
それはクライアントとのプレゼンの前に来栖に一言、こう言っておくことだ。
「来栖、今日のプレゼンはお前が中心となって進めてくれ。しかし、初めてのプレゼンということで緊張するのは当然だし、上手くいかないこともあるだろう。おれはそれでも見守っているつもりだ。ただし、クライアントの機嫌を損ねたり、無理なスケジュールで合意しかけたりといった、案件に重大な影響を及ぼしかねない事態だと判断した時は躊躇なくおれがフォローを入れる。それはクライアントのためであり、チームのためでもある。分かってくれるな。」
予め種田からこう聞いておけば、来栖はフォローを入れられても納得感を得られたのではないか。部下のプレゼンの際には事前に「基本は君に任せるが、こういう事態だと判断したらフォローを入れるからよろしく」と一言伝えておく。きっとそれだけで部下の反発は和らぐだろう。
クライアントへのプレゼン後、来栖は先方についての文句を言い続ける。これは社会人として言語道断で弁解の余地もないが、それはそれとして種田による以下のフィードバックもお粗末なものだったと言われても仕方がない。
「文句言ってる暇があったら、クライアントが何を求めているのか、どうすればそれを叶えられるのか、もっと死ぬ気で考えないとだめだろ。」
このような発言は上の立場の人間なら、つい言いたくなるものだが「部下の育成」という観点ではNGだ。こう言われた部下が「自分は頑張っているのに、なぜ認めてくれないんだ。そもそも死ぬ気で頑張れっていったって、どう頑張ればいいんだよ。」と反発することは火を見るよりも明らかだ。
では、こういうときに上司は部下にどう声をかけたらよいのだろう。
まずは、たとえ部下が失敗してはらわたが煮えくり返っていたとしても、それをぐっと堪えて労いの言葉をかけてあげよう。
なぜなら、このケースにおいて部下は上司から、上手くいかなったことを責められると身構えているからだ。こういう精神状態では、人は「闘争」か「逃走」かの2択しか選べなくなることが多い。「闘争」であれば上司のダメ出しに対して即座に反論をするだろうし、「逃走」であれば沈黙に徹するか、ただひたすら謝って嵐が通り過ぎるのを待とう、という対応になってしまう。これでは如何によいフィードバックを与えても徒労に終わってしまう。
だから、敢えて「初めてのプレゼン、ご苦労様だったな。疲れたんじゃないか。」などと労いの言葉をかけて部下の精神的なガードを下ろさせるのだ。
だが、まだ安心してはいけない。ガードを下ろしたところで一方的なダメ出しをすれば元の木阿弥になってしまう。そこで効果的なのは「フラットな」問いかけだ。例えば「プレゼン、やってみてどうだった?横で見ているのと、自分でやるのでは違ったんじゃないか?」などと感想を聞くことだ。そうすれば部下は自ら反省点を挙げてくれるはずだ。ちなみにここで敢えて「フラットな」と書いたのには理由がある。間違っても「プレゼン、全然できてなかったけどそれについては自分でどう思う?」などと「否定的に」問いかけてはならない。これはもはや問いかけというより詰問であり、相手を委縮させるだけだ。
そして、まだここで油断してはならない。部下の回答に対して「それでは、次のプレゼンでは、今挙げてくれた課題に対応して上手くやるためにはどうしたらいいと思う?」と問いかけて、自分から改善案を出させるのがベストだ。それによって、部下は上司から押し付けられたと感じることはなく、自ら出した答えなので頑張ろうと思い、モチベーションをアップさせることができるだろう。
以上、新人の「育成」と「成果」を両立させるための心得を「事前指導を徹底せよ」、「事前通告せよ」、「事後フィードバックの仕方に気をつけろ」というキーフレーズと共にお伝えした。新人の来栖は言うまでもなく、種田や東山も作中で上司/先輩として成長してくれることを期待している。