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吉高由里子さん主演のドラマ「わたし、定時で帰ります。」の第二話は主人公・東山結衣の先輩で産休・育休明けのディレクター、賤ヶ岳八重(内田有紀)を中心に話が展開する。
賤ケ岳は復帰当初から「子どもがいるからといって仕事の手は抜けない」と意気込み、育休中の夫に双子の赤ん坊を預けて残業も厭わずバリバリ働き始める。
ところが肩に力が入り過ぎて周囲が見えなくなってしまい、デザイナーの指摘に耳を貸さなかったことが原因でトラブルを起こし、クライアントから大目玉を食らってしまう。
さらにリカバリーしようとしているときに、今度は子どもが熱を出してしまい、次第に追い詰められてしまう。
なぜ、賤ケ岳は夫の協力を得て子育てしながら仕事に打ち込める環境ができたはずなのにこのような状況に陥ってしまったのだろうか。
それは、これまでの仕事と家事に加えて「育児」が増えてもパフォーマンスを発揮するために必要な3つの「マネジメント」ができていなかったからと考える。
賤ケ岳は最初から「残業でもなんでも任せてください」と発言しており、東山から「翌日でも間に合いますよ」と指摘を受けても定時後に打ち合わせを開いてしまう。
つまり、最初から「残業ありき」で仕事を進めるというスタンスをとっているのだ。
それでも子どもが生まれる前ならばあまり問題にはならなかったかもしれない。
ところが、幼い子どもを育てるということは通常、フルタイム勤務の仕事を2つ掛け持ちしているのと同等以上の負担がかかる。
特に双子の赤ん坊を育てるとなれば、夜泣き対応も考慮すると在宅時は平日、休日問わず無休の日々が続く。
賤ケ岳が残業ありきで仕事をすると、その分の負担が育休中の夫に上乗せされ、世帯単位での負荷が増して互いにストレスが蓄積していく一方だ。
さらに、今回の話のように子どもが熱を出したりすると仕事を中断してでも即座に対応が必要になるし、他にも予防接種や乳幼児健康診査などのイベントも乗り切らねばならず、そうしたイベントは通常、平日の日中にこなさなければならない。
こうした育児特有の状況を鑑みると「残業ありき」では早晩、生活が破綻することが目に見えている。
そもそも仕事をする上で最初から残業を見込んでいるようではタイムマネジメントの概念がないに等しく、突発対応が起きる可能性を考慮していない点から考えてもリスキーであることこの上ない。
そこで、子育てにかかる負荷やイベント、突発対応を考慮して、定時マイナス1時間で仕事を終えてもお釣りが来るくらいのバッファーをもって計画を立て、実行するくらいがちょうどよいのではないだろうか。
こう言うと「それはサボっているのと同じではないか」と指摘する人が必ずいるが、それは違う。
最初に立てた計画通りにすべてがうまくいくことなどまずないので本当に毎日定時マイナス1時間で仕事を終えられることはほとんどないし、もしすべてが計画通りに進んだ場合は余った1時間で周りの社員の仕事を手伝ったり、若手社員を教育したりして組織全体のためになる仕事をしたらよい。
賤ケ岳は、クライアントの新商品PR用に作成したサイトデザインが海外の飲料メーカーのサイトに似ていると指摘を受けたにも関わらず「まあ、大丈夫でしょう」と流してしまい、後で気づいたクライアントの怒りを買ってしまう。
この失敗は、彼女が「リスクマネジメント」を怠ったせいで起きたといえる。それでは、どうしたらよかったのだろうか。
まずはそもそも本案件におけるリスクについてデザイナーを含めたメンバー全員で議論し、洗い出して共有すべきだった。
そうすることでリスクに対する感度が上がり、大事になる前に適切に対応できたはずだ。
また、できれば「どのリスクを誰が負うのか」についても併せて議論しておきたかった。
今回のケースでいえば、もし先に議論していたら「競合他社のサイトと類似したデザインを採用することによるリスク」については、どう考えてもディレクターの賤ケ岳ではなくクライアントが背負うべきリスクであり、すなわち意思決定はクライアントに委ねるという結論に至っただろう。
そして賤ケ岳が最も失敗したのはチームメンバーとの関係性の構築だろう。
彼女は育休明けだからと張り切るが、メンバーの意見を一切聞かずに最初からすべてを自分の思い通りに進めようとして軋轢を生んでしまう。
これではメンバーは自主性を奪われ、モチベーションが下がって当然だろう。
さらに彼女のミスにより手戻りが発生した上、リカバリーのための会議にも遅刻したとなればもはや信頼関係は崩壊しても致し方ない。
彼女に欠けていたのは「チームマネジメント」であり、それはメンバーの特性を活かし、やる気を引き出し、それを目標に向けて1つに束ねることだ。
そのために最も大事なことはメンバーの話に耳を傾けること、すなわち「傾聴」だ。
たとえ自分の考えとは異なる部分があったとしても相手の話が終わるまでしっかり聞いてあげるということなのだが、慣れていないと案外難しい。
相手の話を途中で遮ってしまったり、他のことを考えているのがバレると相手のやる気を削いでしまう。
そこをぐっとこらえて真剣に話に耳を傾けると、自ずと相手からの信頼度が上がる。
また、彼女は「育休明けだからといって舐められるわけにいかない」といって「強い女」を演じるが、これまた逆効果だ。
上からの強い「圧」に対してメンバーは反発するか、抑圧されて意気消沈するかどちらかの反応を示す。
こういうときは逆に、自分の足りないところ、助けが欲しいところを示すことでチームの力を引き出すのが上策だ。
ドラマのケースでいえば、賤ケ岳が
「私はクライアントの期待値を超える最高のサイトを作りたい。そのために私はこれまでの経験を活かして全力で取り組む。
でも私一人ではサイトは作れない。
それに子どもが体調を崩したら急遽帰らなきゃならないときもあると思う。だから、どうか皆の力を貸してほしい。」
といった話ができたら、メンバーとの関係性は違ったものになっただろう。
ドラマとしての良し悪しは置いといて。
以上3点、「タイムマネジメント」、「リスクマネジメント」、「チームマネジメント」を賤ケ岳が身に着けて、賤ケ岳が仕事と子育てをうまく両立できるよう祈るばかりだ。